【ムンプス難聴】大人も怖い「おたふくかぜ・流行性耳下腺炎」ワクチンで予防を【不妊の原因】
朝起きたら急に頬が腫れていた。
何の予兆もなく片方の頬が腫れた。
食事していたら頬がじんじんして腫れてきた。
このような訴えで当院を来院される患者さんは、「耳下腺炎」のことが多いです。
一般的に、耳下腺炎は「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」が良く知られています。
「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」は、お子さんに難聴や髄膜炎などを起こすこともある怖い病気ですが、思春期以降の大人は子供よりも重症化しやすく、精巣炎・卵巣炎などを合併し不妊の原因になることもあります。
今回は「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」だけではなく、耳鼻科にかかる患者さんも多い一般的な耳下線炎を含めてお伝えします。
目次
耳下腺とは何でしょうか?
耳下腺とは耳の下にある唾液を出す組織です。
唾液は、大唾液腺と呼ばれる耳下腺、顎下腺、舌下腺と小唾液腺と呼ばれる口腔内の粘膜から分泌されます。
耳下腺は耳の下~頬にかけてあり、比較的さらさらした唾液を分泌します。
耳下腺で作られた唾液はステノン管という管を通って、上の奥歯(上顎第二臼歯)周辺の頬粘膜から口腔内に分泌されます。
唾液の働きは思っている以上に様々あり、食物に水分を与え飲み込みやすくするだけではなく
① 唾液中のアミラーゼがでんぷんを分解する酵素として働く
② 食物のカスや雑菌を洗い流して口腔内を清潔に保つ
③ 食事や飲み物による口腔内の酸性化を中性に戻したり、再石灰化により虫歯を予防する
など様々な役割があります。
耳下腺炎の種類
耳下腺に炎症がおきることを耳下腺炎と言います。
原因によって耳下腺炎にもいくつか種類があります。
流行性耳下腺炎
いわゆる「おたふくかぜ」のことです。
ムンプスウイルス感染に伴って耳下腺が腫れる病気を流行性耳下腺炎と言います。
5世紀に医学の父と呼ばれるヒポクラテスが、耳の近くが両側または片側のみ腫れる病気が流行したと記したのが最初と言われており、耳周辺の痛みと精巣の腫れも伴うとの記載があります。
流行性耳下腺炎は2~3週間の潜伏期を経て発症し、片方または両側の唾液腺の腫脹を特徴とするウイルス感染です。
子供がかかりやすい病気で、3~6歳の幼児で約6割を占めています。
発熱と片方の耳の下や頬が腫脹し痛みを伴う場合もあります。2日程度おいて反対側の頬が腫れてくることもあります。
80%程度は発熱を認め、倦怠感や頭痛も伴います。
耳下腺のみではなく顎の下である顎下腺も腫れることがあります。
流行性耳下腺炎の怖いところは、頬が腫れること以上に「合併症が存在する」ということです。強い頭痛、嘔吐を認める髄膜炎、不妊症の原因となる睾丸炎・卵巣炎、片方の耳、または両側の耳の難聴などを起こす可能性があります。
この難聴は「ムンプス難聴」と呼ばれ、日本耳鼻咽喉科学会の2015-2016年の疫学調査では、2年間で300人程度の患者がかかっていると推定しています。ムンプス難聴は高度難聴となることが多く、両側難聴になった場合は手話や補聴器、人工内耳での生活を余儀なくされます。
ムンプスウイルスに対するワクチンが存在し、接種しておけば流行性耳下腺炎やそれに伴う合併症は予防できます。1歳過ぎたら接種することが推奨されていますが、2022年現在定期接種にはなっておりません。
自治体によっては補助が出ることもありますが、一般的には任意接種のため保護者の費用負担が必要になります。
ムンプスに対するワクチンは2回接種が推奨されています。
接種推奨時期は、麻疹風疹混合ワクチンの定期接種と同時期である1歳と小学校入学前1年間です。
2回接種しないと予防率が下がりますし、小学校入学前はワクチンを打つ機会も減っており特に2回目の接種は忘れがちです。
おたふくかぜの合併症である難聴は、一度なったら一生治りません。
「ワクチンを打っていれば防げた難聴や不妊症だった」と分かれば悔やんでも悔やみきれないと思います。
大切なお子様を守るためにも是非母子手帳をみてムンプスワクチン接種を行っているか確認することをお勧めします。(2022年8月現在当院ではムンプスワクチンの接種は行っておりません。接種の際は近隣の小児科にご相談下さい。)
急性化膿性耳下腺炎
耳下腺が細菌感染によって炎症を起こし化膿した場合は化膿性耳下腺炎と言います。
高熱や耳の下の強い痛み、皮膚の発赤を伴うことが多いです。
頬を圧迫するとステノン管開口部といって上の奥歯周辺の頬粘膜から膿が排出されていることがあります。
細菌感染のため抗生剤が効果的です。
その他の耳下腺炎
ムンプスウイルスや細菌感染以外でも耳下腺が腫脹することがあります。
はっきりした原因がわからないことも多いですが、抵抗力が低下している時などに起床時や食後に耳の下が腫脹し数日で自然に改善する場合もあります。
一時的に唾液を出す管が狭くなり、耳下腺に唾液がたまったためと考えます。
また繰り返す場合は反復性耳下腺炎と言われ特に小児期に多くみられます。
やや男の子に多く、ほとんどが6歳以下で発症します。
思春期頃には症状が自然に消退することが多いですが、一部は成人になっても繰り返します。
中には、唾石といって唾液を出す管に石が詰まっていることがあり、石が排出されるまでは耳下腺炎を繰り返すこともあります。
診断方法
頬や耳の下が腫れた際に、耳下腺炎かどうか判断するために血液検査を行います。
流行性耳下腺炎が疑われる場合は、ムンプスウイルスの抗体検査を行う場合もあります。
また唾石が疑われる場合は頸部エコーや頸部CTを行います。(当院にはないため連携病院への紹介になります。)
今回は耳下腺について書いてみました。疑問に思うことがあればお近くの耳鼻咽喉科にご相談下さい。