ツムラ漢方記念館と工場見学に行ってきました。~やっぱり漢方は面白い!~
医療従事者であれば漢方の製薬会社で有名な株式会社ツムラさんの工場見学に行けるという情報を聞き、先日茨城県稲敷郡阿見町にあるツムラ漢方記念館へお邪魔しました。
とても面白かったので、今回は体験記を含め漢方についてお話していきたいと思います。(COIはありません。)
※1つ注意点があります。
今回の漢方記念館への工場見学は、医療従事者限定になりますので一般の方から工場へのお問合せはご遠慮ください。
その代わりにツムラさんがバーチャル見学のサイトをご用意しています。
工場見学に行った気分を味わえますのでご興味ある方は是非ご覧ください。
バーチャル漢方記念館へのリンク
https://www.tsumura.co.jp/hellotsumura/
目次
- ツムラ漢方記念館
- 漢方の歴史
- 生薬について
- 雑感その他
ツムラ漢方記念館
ツムラ漢方記念館は茨城県稲敷郡阿見町にあり、目と鼻の先に「牛久大仏」があります。
牛久大仏といえば、ブロンズ立像としては世界最大の全高120メートルもある大仏様です。
実際に近くで見るととても迫力のある大きさでした。
中に入り、胸の高さくらいまでエレベーターで昇ることができます。1993年に完成したそうで、思いのほか新しくできた大仏様ですね。
中には建築途中の写真などが飾られていました。
漢方記念館は工場のある敷地内にあり、漢方の歴史や生薬について学ぶことができます。
漢方の歴史
ここで問題です。「漢方医学」はどこの医学だと思いますか?
- 中国
- 日本
- インド
やっぱり中国だろうと思う方が多いのではないでしょうか?
答えは「日本」です。
漢方医学は日本独自の医学です。
古代中国で生まれた後、5-6世紀ごろに日本へと伝えられそこから独自の発展を遂げてきた伝統医学が今ある「漢方」ということです。
なので、漢方は日本の風土や日本人の体質に合わせて発展してきました。
「え、じゃあ中国の医学はなに?」と思いますが、中国での医学は中医学と言います。
日本の漢方医学は中医学の要素も取り入れてます。
5-6世紀ごろに中医学が伝来し、それから1400年以上かけて、日本独自に発展した医学が、漢方医学です。
日本に医学が伝来してから平安時代までは、宮廷医が医療を行っていたので、身分の高い一部の人しか医療を受けられませんでした。
鎌倉から室町時代のころは、お坊さんも医療を行うようになり、徐々に一般の人にも医療が普及していきました。
その後、江戸時代の鎖国をきっかけに日本独自の文化が発展し、このころから漢方医学として大きな発展を遂げています。
江戸時代に日本が開国していたオランダから伝来した西洋の医学を「蘭方」(蘭方医学)と呼び、これまで日本で普及していた医学を「漢方」(漢方医学)と呼び分けたそうです。
「漢」の字を使ったのは、漢の時代を起源とする医学であるからと言われているそうです。
だから漢方というと中国をイメージするのかもしれませんね。
明治時代になり日本が開国すると一気に西洋医学が日本に入ってきました。
政府により西洋化を推進する政策の影響で「西洋医学」を国の医学の中心にすることに決まりました。
その後、西洋医学を学び国家試験に合格しなければ医師免許を与えない規則が制定されました。
漢方医学を守ろうと漢方治療を行う医師たちによって出された「漢方継続願」は残念ながらに日本政府は認めませんでした。こうして日本の医療は西洋薬が主流となり、漢方は衰退していきます。
しかし一部の医師や薬剤師などにより漢方は脈々と引き継がれていきました。
昭和に入り
1950年、漢方治療を行う医師、薬剤師による「日本東洋医学会」が設立され
1967年に漢方エキス製剤4処方が初めて保険適応になり
1976年には、さらに医療用漢方製剤38処方が保険適用され、広く医療現場に知られるようになりました。
現在は合計148処方が保険適用になっています。
また2004年には、文部科学省の医学教育のコア・カリキュラム制定により日本の全医学部80校全てで漢方治療のカリキュラムが制定されました。
漢方の需要は年々上がっているようで、ツムラでは生産量が20年前と比較し3倍に上がっているそうです。
最近(2024年現在)はコロナ感染症の影響を受けて、需要がさらに増加し限定出荷といって一部の薬の生産が追い付かず調剤薬局で薬が手に入りづらい状況にもなっています。
そのため工場は24時間体制でフル稼働しているそうです。
生薬について
西洋薬とは違い、漢方は植物や鉱物からなる自然由来の生薬を用いています。
漢方記念館にはたくさんの生薬がガラスの筒の中に展示されていました。
ここでまた問題です。
こちらの生薬は何でしょうか?
答えは、麻黄湯で有名な「麻黄(マオウ)」です。
画像は地下茎を乾燥させたものです。
他にも
葛根湯に入っている「葛根(カッコン)」は、クズ(葛)の根の皮を除いて乾燥させたもの。
葛は秋の七草でもあります。
麦門冬湯に入っている「麦門冬(バクモンドウ)はユリ科の「ジャノヒゲ」の根の膨大部を乾燥させたものです。
・
桔梗湯に入っている「桔梗(キキョウ)」は、紫色の花を咲かせ古くから身近な花として親しまれていますが、生薬は桔梗の根を乾燥させてものです。桔梗も秋の七草のひとつです。
イメージしていた生薬の形と異なりとても興味深かったです。
中でも驚きの生薬が一つありました。
ここでまた問題です。
この中で、本当にある生薬はどれでしょうか。(苦手な方は画像注意!)
- ゴキブリの足
- せみの抜け殻
- へびの皮
・
答えはこちら「せみの抜け殻」です。
「蝉退(センタイ)」という生薬で、消風散(ショウフウサン)という漢方の生薬の1つです。湿疹や皮膚炎に用いられる漢方です。生薬は薬草や鉱物が多い中で、せみの抜け殻が展示されているのは驚きでした。
漢方はあくまで生薬を原料とする薬であり、そのまま刻まれて薬になっているわけではないのでご安心ください。
展示品の中には、昔使用されていた道具も置かれていました。
薬研(やげん)という薬をすりつぶす道具を体験することが出来ました。
六君子湯の生薬をすりつぶしましたが、引くと漢方らしいとてもよい香りが立ち込めました。歯車のような部分がもっと簡単に回ると思ったら、案外回らずけっこう重くて容器と歯車の部分で生薬を押しつぶしながら擦る感じでした。
漢方製剤は自然由来の生薬から作るため、含まれる成分などの品質を一定にすることがとても難しい医薬品であり、いつでも同じ成分・性質になるように色々工夫が凝らされていました。
ツムラでは生薬ごとに生産地を厳選し、決められた生産団体により決まった生産方法で作っています。その後良い生薬のみを厳選し、コンピューター管理しながら均質な漢方製剤になるように厳格な品質管理を行っているそうです。品質の高い漢方を作ろうとする情熱が館長の説明の中でも伝わってきました。
ワインの「今年は当たり年」というような、年による差が出てはいけないのです。
という説明があり自然由来のものを取り扱う薬の難しさを感じました。
雑感その他
当日は漢方記念館以外にも、生薬保管倉庫や工場の中まで案内してもらいました。
倉庫や工場は撮影禁止エリアとなり厳格に管理されています。
生薬をエキス剤の粉にする過程はいくつもの工程があり、私たちが手にすることのできる薬になるまで多くの手が加わっていることを改めて実感しました。
生薬の90%は中国で生産されており、残りの10%を日本やラオスで生産しています。
中国に行かなければとれないような生薬を使い、最高のバランスで調合した薬を日本にいながら簡単に薬局で手にすることができる流通システムは非常に恵まれていると感じます。
漢方は学ぶ機会は少なく自主的に勉強会に参加したり、本を読んで勉強しないと知識が入りづらい領域ですが、西洋医学では解決できないような症状を治すことが出来たり、風邪の時に服用すると早く治ったりと個人的には非常に有用な薬だと感じています。
漢方の一部は薬局でも購入することができるので、どんな薬があるか眺めてみてはいかがでしょうか?
一人の医師として日本人の体にあった伝統ある漢方を、衰退させることなく日々の診療に役立てていきたいと思います。
ツムラ記念館の館長様をはじめご担当いただいた方々に感謝します。
本当にありがとうございました。