【耳管開放症 じかんかいほうしょう】 ~急に耳が詰まった、自分の声が大きく聞こえる、耳に膜が張った感じ、自分の呼吸音が聞こえる~
今回は「耳管開放症」についてお話しようと思います。
耳管開放症は耳鼻科疾患の中でもそこまでよくある疾患ではありませんが、
「出勤途中に急に耳が詰まりました。」
「部活の後、急に耳に膜が入った感じになるんです。」
「話していると急に自分の声が大きく聞こえてしばらく治りません。」
こんな時、耳管開放症になっていることがあります。
比較的若い方、特に女性がなりやすく誰でも経験する可能性がある病気なので知っておいて損はないと思います。
≪目次≫
1.耳管とは
2.耳管開放症の症状
3.耳管開放症のなりやすい状況、なりやすい方
4.耳管開放症の対処法、治療法
5.耳が詰まる他の病気
耳管とは
「耳管」と書いて「ジカン」と読みます。
耳管は耳と鼻をつなぐ管であり、耳抜きをするときに空気が通る管です。
鼓膜の後ろの空間と鼻の突き当りをつないでおり、普段は閉じていますが、耳抜きをするときなどに開いて圧の調整をします。
飛行機に乗った時に耳に圧を感じて耳が詰まることがあると思いますが、その時につばを飲むと鼓膜がパリっという感覚とともに詰まりが取れると思います。
飛行機に乗ったりして急に標高が変化すると、大気圧と鼓膜の後ろの空間の圧に差が生じ、薄い鼓膜に圧を感じるため嚥下で開け閉めできる耳管で圧調整をしています。
この耳管のしまりが緩くなり開いてしまう病気が耳管開放症です。
耳管開放症の症状
耳管が緩くなると、自分の声が耳に響きます。
声は声帯が振動して発されます。
通常自分の声を聞くときは、声帯から発せられた声(空気の振動)を、外耳道を経由し鼓膜を振るわせて内耳、聴神経、脳へと伝わって聞こえると感じますが、耳管が開放していると、声帯から発せられた声(空気の振動)が耳管からも伝わり、鼓膜の後ろから内耳へと音を伝えていくため、通常よりより自分の声が大きく聞こえます。
また鼻の奥を通る呼吸の音も耳に響きます。
これも同じ理由で、鼻の奥を通る呼吸の音が耳管から耳へ伝わってしまうため、通常では聞こえない音が聞こえてしまいます。
また耳管が開放していると、鼓膜の後ろの空間(鼓室)が閉鎖空間にならず音の響きも変わり、周りの音が曇って聞こえ、膜を張っているように音が詰まって聞こえます。
耳管開放症のなりやすい状況、なりやすい方
私(院長)も妊娠中に耳管開放症になりました。
通勤中いつも決まって職場の最寄り駅を降りて歩いている時に起きました。
片方の耳がぼわんとして、耳に水が入ったようになり、声を出すと自分の声だけがやたらと大きく聞こえてしまい、とても不快な症状です。
耳管開放症の事をしらないと、職場のストレス?などと疑ってしまうような症状でした。
耳管開放症にはなりやすい状況やなりやすい方というのがあります。
・ずっと立っている時、歩いている時
・・・通勤中や立ち仕事の方に多いです。
・妊娠中、ピル服用中
・・・出産するとぱたりと症状がなくなります。
・激しく運動する
・・・部活後にも多いです。
・汗をたくさんかく
・・・夏に多い印象です。
・若い女性
・急に痩せた 無理なダイエット
・鼻をすする癖のある方
耳管の周りの脂肪が減る、周囲の血管が虚脱することが影響します。
耳管開放症の対処法、治療法
私が耳鼻咽喉科の後期研修医時代に、上級医の先生方の診察を後ろから見ていた時、耳管開放症らしい患者さんに対して、先生がその方の耳の下にそっと手を添える場面がありました。
すると患者さんが「あ、治りました!」と話され、上級医の診断力と手技にびっくりしました。
実際は手を離すとまた症状が戻ってしまうのですが、それでも薬も何も使わずに症状を改善させている様子をみて、今でも大変印象に残っています。
その数年後、自分が耳管開放症になったのですぐに耳の下を押してみたら、びっくりするくらいすぐに症状が取れたのでその効果を実感しました。
通勤中や仕事中立っている時によく症状が起きていたので、症状がでるといつも片手を耳の下にあて、首を少しかしげながら歩いていました。
【注意】耳の下を押す方法は、場所が分かりづらい場合もあるので、耳管開放症を疑った場合は靴ひもを結ぶ時、お辞儀をする時のように頭を下げてみて症状が治まるか確かめてみてください。
頭を下げて自分の声が反響しなくなったり、耳閉感が改善したりしたら、まず耳管開放症の診断で良いと思います。
(※ただし自己判断で終わらせずに耳鼻科を受診してください)
私は比較的症状が軽く、幸い座って外来をしている時に症状が起きることはなかったので対処法のみ行い、出産すればよくなるという見込みもあったのでなんとか乗り切れましたが、中には長年症状が続いている、寝ている時以外ずっと症状があるという方もいて、この病気を患ってしまうと結構なストレスになります。
耳管開放症の治療は、漢方薬や生理食塩水の点鼻が一般的です。
しかし、なかなか症状がとれない重症な方もいて治療に難渋することがあります。
当院では行っていませんが、耳管開放症の治療が得意なクリニックや一部の病院では、耳管に薬を注入する、鼓膜パッチを置く、耳管ピン挿入術などの方法もあります。しかし比較的取り扱っている病院が少ない処置や手術かと思います。
軽い症状であれば生活習慣である程度は対策出来ます。
耳管の周りの脂肪や血管内のボリュームを増やせばよいので、
・長時間立たないでこまめに座る。
・水分をこまめに摂る。
・適正体重にする。
などを心がけると良いと思います。
耳が詰まる他の病気
耳管開放症と似たような病気は他にもあります。
1,外耳の病気
・耳垢栓塞
・外耳道異物
・外耳炎
2,中耳の病気
・滲出性中耳炎
・耳管狭窄症
3,内耳の病気
・突発性難聴
・低音障害型感音難聴
特に「低音障害型感音難聴」との鑑別が難しいところです。
耳が詰まる=耳管開放症ではないので、判断が難しい場合は近くの耳鼻咽喉科で診察を受けてください。
如何でしたでしょうか?
当院は特殊な治療を行っているわけではありませんが、自分も経験がある病気なので、少しでも皆様のお役にたつことがあれば良いなと思い、今回は耳管開放症について書いてみました。