【低音障害型感音難聴】 「耳がぼーっとする」「耳に水が入った感じ」「周りの音が響く」こんな症状があれば耳鼻科にご相談を
「朝起きたら急に耳が詰まっていた」
「耳に水が入ったわけではないのに、ずっと水が入っている感じがする」
「冷蔵庫の音のような低い耳鳴りがする」
「周りの音が二重に聞こえる」
このような症状を感じたら急性低音障害型感音難聴かもしれません。
「きゅうせい ていおんしょうがいがた かんおん なんちょう」なんだかややこしい単語が並んでいて難しそうな病気ですね。でも簡単に言うと「急に低い音が聞こえづらくなる病気」のことです。思ったよりもこの病気にかかる方は多く(特に働き盛りの20代~40代)、日常生活が不便になってしまいます。今回は一般的にはあまり知られておらず、正確な診断がされにくいこの難聴を記事にしました。
目次
急性低音障害型感音難聴とは
急性低音障害型感音難聴と長い名前の病名ではありますが、要は「急に、低い音が聞こえづらくなる、感音難聴」ということです。
感音難聴というのは内耳や聴神経に異常がある難聴です。
難聴は障害がある部位によって「伝音難聴」と「感音難聴」に分かれます。
外耳道のある外耳、鼓膜や耳小骨のある中耳までに異常がある場合は伝音難聴、内耳よりも大脳側に異常がある場合を感音難聴と言います。
例えば、外耳道が詰まっているような耳垢や鼓膜に穴が開いて鼓膜が機能しなくなっている鼓膜穿孔、中耳炎による難聴は伝音難聴、突発性難聴は感音難聴です。
急性低音障害型感音難聴は突発性難聴に近いですが、突発性難聴は低音域以外の聴力も低下することに対し、急性低音障害型感音難聴は低い音のみが低下します。
耳鼻科で聴力検査を行う場合は7つの音(周波数)を検査しますが、そのうち低い音3つ(125Hz、250Hz、500Hz)が低下します。
下図は右急性低音障害型感音難聴の聴力検査の結果です。丸印(赤)は右耳の、×印(青)は左耳の気導聴力を表します。また同時に耳の後ろの骨に振動する端子を当てて骨導聴力を検査します。[ は右耳、] は左耳の骨導聴力を表します。縦軸が音の大きさ、横軸が音の高さを表します。正常聴力は25dB未満となります。
・気導聴力:耳の穴から入った音が鼓膜や耳小骨を振動させ、それが内耳、脳に伝わる聴力のこと。私たちは通常この方法で音を聞いています。
・骨導聴力:耳周囲の骨の振動が直接内耳へ伝わり、その先の脳に伝わる聴力のこと。検査では耳の後ろの骨を振動させて検査します。最近は骨伝導イヤホンの仕組みとして知られるようになりました。気導聴力と骨導聴力の違いを検査することで、難聴がどの場所が原因かを判断することが出来ます。
先程の図では右耳の気導と骨導聴力が下がっているので感音難聴の状態です。
横軸は周波数、つまり音の高さを表しており、数字が小さい方が低い音、大きい方が高い音になります。
先程の図では125Hz,250Hz,500Hzが低下しており、低音が聞こえづらいということになります。
一般的に25dBより大きい(=25dBより大きな音でないと聞こえないということ)場合に難聴と判断します。
片方の聴力のみが低下することが多いですが、両側性も7%程度認めると言われています。(急性感音難聴診療の手引きより)
個人的に両側性はもう少し多い印象で、もう片方の聴力も低音がやや低下する、経過の途中で左右悪い方の聴力が入れ替わることもしばしばあります。
正確な診断の定義は「低音域3周波数(125Hz、250Hz、500Hz)の聴力レベルの合計が70dB以上、高音域3周波数(2000Hz、4000Hz、8000Hz)の聴力レベルの合計が60dB以下」と定義されています。
また急性低音障害型感音難聴に回転性めまいを合併することがありますが、その場合は急性低音障害型感音難聴とは言わずにメニエール病を疑います。
突発性難聴と比較し、治りやすい傾向がある反面、繰り返すことが多い傾向があります。20~40代と比較的若い年代に生じやすく、女性に多く男性と比べて2-3倍であると考えられています。
はっきりとしたことは分かっていませんが、内リンパ水腫が一因であると考えられています。内リンパ水腫とは内耳がむくんだ状態のことをいいます。
内耳には蝸牛といって音の振動を電気信号に変換する場所があり、蝸牛の中にはリンパ液が満たされています。そのリンパ液が過剰になった状態を内リンパ水腫といいます。
症状
冒頭でも記載したような以下の症状を訴える方が多いです。
「耳が詰まる」
「耳の周りがぼわーんと変な感じ」
「耳に水が入ったわけではないのに、ずっと水が入っている感じがする」
「周りの音が二重に聞こえる。響く。」
「飛行機の中のようなゴーっという閉塞感がある」
「冷蔵庫の音のような低い耳鳴りがする」
「女性の声は良いんだけど、男性の低い声が聞き取りづらい」
また日によって症状の強さが違うことや1日のうちで症状が変動することも多いです。
「今日は比較的いいんだけど、昨日が一日中ひどかった」
「朝が症状強くて、午後になると少し改善してきた」
などと訴える方が多いです。
さらによく聞くと「以前にも似たような症状を起こしたことがある」という方も多いです。
急性低音障害型感音難聴は繰り返すことが特徴で、診断には至らない程度の軽い症状を起こし自然に治癒している例も多くみられます。
急性低音障害型感音難聴の病態については、まだ分かっていないことが多いですが、診療しているとなぜだか急性低音障害型感音難聴の方が多い日、多い週というものが存在します。
「同じような症状で受診された方が立て続けに聴力検査が必要になる」ということもよくあります。(そういった日は受診の待ち時間が長くなってしまいます)
感覚的には季節の変わり目や天候が不安定な時期に多い印象があります。また低音障害型感音難聴を繰り返している患者さんは、台風が来そうなとき、低気圧の時は症状が良くないと言う方もよく見られます。
一方、耳のつまりを自覚する病気は他にも様々あり、耳管開放症、耳管狭窄症、滲出性中耳炎、耳垢栓塞などが候補に上がるため、急性低音障害型感音難聴かどうかは聴力検査を行わないと診断はつきません。心配に感じる場合は耳鼻咽科での聴力検査をお勧めします。
治療
急性低音障害型感音難聴の病態は内リンパ水腫との関連が想定されているので、内リンパ水腫に対する治療を行っていくのが一般的です。内リンパ水腫は内耳がむくんだ状態であるため、むくみをとる浸透圧利尿剤を使用します。
イソソルビドという飲み薬を使用しますが、イソソルビドは錠剤ではなくシロップやゼリーの形状になります。このイソソルビドが独特な味をしており、飲むのがつらいかもしれません。
漢方薬では五苓散という薬も、余分な水を体外に出す作用があり使われることがあります。
また聴力低下が高度な場合は、突発性難聴に準じてステロイド剤を使用したり、併用してビタミン剤や内耳の血流を良くする薬を用いることもあります。
セルフケア
「家で何かできることはありますか?」
「何かしてはいけないことはありますか?」
と質問されることがあります。
病態として内耳のむくみが一因と言われています。病態の似ているメニエール病では、ストレスや不規則な生活が発症との因果関係を持つとされています。それに準じてむくみやストレスを減らすこと、規則正しい生活を送ることが望ましいでしょう。
具体的には、
・飲酒を控える
・水分をたくさん摂取し、トイレを我慢しないこと
・長時間同じ姿勢でいるのをやめて、体を動かすようにすること
・軽い有酸素運動をすること
・ゆっくりとお風呂に入ること
・いつもより早く寝ること
などが挙げられます。
低音障害型感音難聴は突発性難聴より治りやすい反面、長期的には反復、再発が多い病気です。症状があるうちは無理をせず十分休息をとりましょう。
ここまで読んでいただきありがとうございます。誰でもかかる可能性がある病気なので、この記事が少しでも皆さんのお役に立てれば嬉しいです。
参考文献
・急性感音難聴診療の手引き 一般社団法人 日本聴覚医学会
・「第119回日本耳鼻咽喉科学会総会教育セミナー」メニエール病の診断と治療 -メニエール病の治療- 北原 糺 日耳鼻121:1056-1062,2018