耳鼻咽喉科診療に特化した多機能な器械・器具の数々 ~ユニットについて~
耳鼻科へ行くと診察室に大きな箱型の器械を見かけることはありませんか?
そしてその器械についている色々な道具で診察を受けたことはありませんか?
まず耳鼻科診療に必須の耳鼻科診察に特化した箱型の器械は、「ユニット」と呼ばれます。
診察にまつわる器械がどんどん新しくなっている昨今ですが、耳鼻科のユニットは何十年も前から基本的な機能は大きく変わっていません。
今回はユニットの機能についてご紹介していきます。
※紹介している画像の器械はすべて医療用高圧滅菌器で滅菌してから診察に使用しています。
吸引(きゅういん)
レバーに引っかけてあり、持ち上げるとスイッチが入りすぐに吸引できる仕組みになっています。
ノズルを交換して鼻用の吸引にも耳用の吸引にも使用できます。
鼻用の吸引の際には、オリーブ管や吸引管を先に装着し鼻汁を吸引します。
オリーブ管はガラス製で透明なため、鼻水がどのような色をしているのかを確認することができます。
吸引管は鼻の一番奥の上咽頭まで吸引することができます。
当院では鼻腔のサイズや鼻の腫れ具合によって4種類の吸引管を使い分けています。
耳用の吸引の際は、耳用の吸引管を使用します。色々な種類がありますが、ローゼン氏の作った管が有名なので、「ローゼン」と呼ぶことが多いです。
当院では4種類のサイズを使い分けています。径が1.0mm、1.2mm、1.5mm、1.8mmととても細く、職人の技が光ります。耳は狭いので2mmの違いでも大きな差になります。
奥にある耳垢や細かい耳垢を除去する際や、耳洗浄、耳漏吸引の際に使用します。
吸引圧も変えることができます。
スプレー
当院ではボスミンとキシロカインのスプレーを入れています。
ボスミンは血管収縮剤で、鼻の粘膜を収縮させて鼻汁を吸いやすくしたり、鼻閉を改善さたりします。
キシロカインは局所麻酔薬で、鼻を吸引する前や鼻腔ファイバーを行う前に痛み止めとして使用します。
当院では感染予防のためスプレーの先(ノズル)は患者さんごとに替えています。詳細は感染対策の使用する器具をご覧ください。すぐに脱着できるようにノズル置き場とノズルを捨てる入れ物もユニットに搭載されています。
この先端を変えないで使用していると患者さんに使いまわすことになり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、コリネバクテリウム属などが検出されているという論文もあります。 (日耳鼻119:696-700,2016耳鼻咽喉科実地診療における感染対策 鈴木正志 大分大学医学部耳鼻咽喉科学講座)
このノズルはワンタッチで装着することができ、外す際も専用の入れ物に押し込むだけで外れるように設計されています。
また普段は「使い捨てのグローブ」を使用して診察しています。
器具置き場
耳鼻科では耳、鼻、喉を診る際にそれぞれ専用の器具を使用するためたくさんの器具を置く場所が必要になります。
まずユニットの上面に四角く凹んだ器具置き場があります。
こちらに比較的かさばる鼻鏡などを入れます。
そのほか、棒状のものや長いものはユニットの台に丸い穴がありそちらに入れます。
耳鼻科で必要な器具が省スペースで効率的に収納できるようになっています。
ここで、耳鼻科で使用する主な器具についてご紹介します。
耳鏡(じきょう)
耳を診る際には、耳鏡を使用します。当院では大きさ別に4種類を使い分けています。
耳鏡を使用することで、耳の毛をどかして奥まで見えるようになり、また周囲を傷つけずに耳垢などを除去することができます。
鼻鏡(びきょう)
鼻を診る際には、鼻鏡を使用します。当院では大きさ別に3種類を使い分けています。
鼻鏡を使用しないと鼻毛で奥がよく見えません。鼻鏡を使用すると下鼻甲介という粘膜が見えます。下鼻甲介の色調や腫脹の程度、周囲の鼻汁の色などを観察しています。
麦粒鉗子(ばくりゅうかんし)
主に耳垢を除去する際に使用します。超微細鉗子とも言い、先端の約3ミリが動きます。耳垢除去の際にお子さんがよくハサミと間違え怖がられてしまいますが、細かいものを掴む道具であり、切るものではありません。
耳垢鉗子(じこうかんし)
麦粒鉗子に似ていますが、先端がより広く開きます。耳垢鉗子と言いますが、耳垢を取るよりも鼻の中のビーズなどを取るときによく使います。耳垢を取るのは麦粒鉗子、鼻の異物を取るのが耳垢鉗子と紛らわしいですね。(どの道具を何のために使うかは医師によって違います。)
舌圧子
金属の棒状のもので口の中を見る時、舌をよけるのに使います。
物置棚
ティッシュや処置に使用する軟膏などちょっとしたものを置くスペースがあります。クリニックによっては薬液の小瓶を入れる台になっているところもあります。
器具置き場の上のデッドスペースに位置しており、空間を有効利用しています。
さらに当院ではその台に筒が引っかかるようになっており、置ききれない器具や綿棒、培養検査などを入れています。
顕微鏡
耳を診察するときに使用する顕微鏡もユニットの支柱から伸びています。顕微鏡のスイッチはユニットのボタンでオンオフできます。
鼻腔・喉頭内視鏡や聴力検査、めまいの検査など耳鼻科で行う検査を画像ファイリングで一元管理しています。写真の右端にファイリングシステムのモニターがユニットの支柱についているのが見えます。
支柱からアームが伸びているので、患者さんに向けて位置や角度を調整することができます。
診察椅子と連動するボタン
耳鼻科の診察椅子は様々な方向に動きます。上下、左右回転、前後方向へボタンで調整することができます。
耳を見るとき左右に椅子を動かしたり、小さなお子様を診察するときに椅子を高くしたり、めまいの診察の際に椅子を平にして水平にすることもあります。
元の位置に戻すときもフットスイッチを押せば戻ります。
通気装置
空気がでる装置で、圧も変えられます。
チューブの先に弯曲した金属管を取りつけ、鼻の奥にある耳管に送気して鼓膜の奥に空気を送り込む、「通気」という処置に使用します。
以前は耳鼻科では頻繁に行われていた処置ですが、一時的に症状を改善させるものであり、最近は行われなくなってきました。
ヒーター
蓋を開けると自動で熱風が出るようになっており、喉の奥を観察するときに使用する鏡やファイバーが曇るときに使用します。
ごみ箱
診察中に出たごみを捨てる小さなごみ箱ですが、重宝します。
水を吸引する瓶
鼻水や耳垢を吸引した後汚れを落とすために使用します。
水を吸った後の器具を再度患者さんへ使用することはないのでご安心ください。
よくお子さんが興味深そうに触ろうとすることがありますが、とても汚いので絶対に触らないでくださいね。
使用済み器械を置くかご
患者さんごとに使用した器具を取り換えるので、一度使用した器具を置くかごが設置されています。
ちなみに当院で使用しているユニットは耳鼻科でよく採用されるものの一つですが、天板は人工大理石でできており、ほとんどキズはつきません。
いかがでしたでしょうか?
耳鼻科医にとっては当たり前の器械ですが、耳鼻科診療に特化した非常に考えられたものであると思います。
耳鼻科へ行ったときは「ユニット」に注目してみると面白いかもしれません。
参考文献
日耳鼻119:696-700,2016耳鼻咽喉科実地診療における感染対策 鈴木正志 大分大学医学部耳鼻咽喉科学講座
日鼻誌49(2):138-142,2010耳鼻咽喉科外来診療におけるユニットスプレーの細菌学的調査 中島規幸ら 獨協医科大学越谷病院耳鼻咽喉科