【風邪の症状経過】ひきはじめに飲めば早く治る漢方薬【麻黄湯】
今回の院長コラムは、風邪に効果的な漢方薬である麻黄湯(まおうとう)です。
身体がぞくぞくっとしてだるくなってきたときに「あー、風邪ひいたかなぁ」と思った経験は誰しもあるのではないでしょうか。
いわゆる悪寒(おかん)がするような風邪の初期は麻黄湯の良い適応です。
目次
はじめに~漢方とは~
漢方薬というとどういったイメージをお持ちでしょうか?
「美味しくない・苦そう」
「効果が薄そう」
「長く飲まないと効かない」
「大人が使うもの」
「良く分からなくてちょっと怪しい」
このような印象を持つ方も多いと思います。
一言で漢方薬といっても種類は多く、現在150種類以上の方剤が保険適応となっています。
それぞれ効能はもちろん、味も違えば、効果がでるまでの時間も違います。
漢方は生姜(ショウキョウ)や桂皮(ケイヒ)などの色々な生薬(しょうやく)を組み合わせて作られており、「生姜を食べれば体がぽかぽかする」、「甘いものを食べると疲れがとれる」など、普段の生活から感じることができる「おばあちゃんの知恵」に似たような要素があります。
西洋医学とは違い、ある疾患に対して薬を出すというより、その方の体質や自覚症状に対して処方します。
漢方は中国で生まれ、その起源は2千年以上に遡ります。
西洋医学では、薬理機序といってその薬がどのように体に作用するかが分かっていますが、
漢方は経験則に基づくものが多く、薬理機序が解明されていないものが多いです。
だからといって効果がないわけではなく、効果を感じる方が多いからこそ今の時代まで廃れずに伝わってきたのだと思います。
風邪の経過
ここで麻黄湯のお話の前に、風邪の経過について説明します。
風邪は「正式には風邪症候群といいます。ほとんどの場合、自然に治るウイルス感染症で、多くは咽頭痛・鼻水・咳といった症状を呈するウイルス性上気道感染のこと」と定義されています。
風邪を引き起こすウイルスの種類にも色々あり、症状の出かたも罹患したウイルスの種類や自分の体質によって異なります。具体的には、ライノウイルス、コロナウイルスが多く、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが続きます。
「私は風邪を引くといつも喉が痛くなるんです」
「私はいつも鼻からきます」
などと診察室で話をされる患者さんもたくさんいらっしゃいますね。
風邪の定義にもある通り、風邪の場合は発症からの経過で喉の痛み、鼻水、咳など色々な症状が出てくるのが特徴です。
色々な経過があり各症状は人それぞれですが、典型的な風邪の経過は、
1,初期はのどの痛み、頭痛、寒気(悪寒)がして、体がだるくなり(倦怠感)、体の節々が痛くなる(関節痛)
↓
2,水のような鼻水がツーっと垂れて、熱が上がってくる。食欲もなくなり、1の症状や咳などが一番つらい時期になる。
↓
3,その後人によっては夜、大量に汗をかいた翌日くらいから徐々に改善していく。
同時期に鼻水がネバネバ(粘稠)しはじめ、黄色や黄緑色になり痰も増える。
↓
4,徐々に熱も下がり症状が治まってくる。気道の炎症は残って咳、声が出ないなどの症状がしばらく続くこともある。
このような経過が3日~1週間程度あって治る方が多いのではないでしょうか?
ちなみに風邪はウイルス感染ですが、よく対比されるのは細菌感染です。
細菌感染は一つの臓器に細菌が感染することが多いので、例えば細菌感染で扁桃炎になっている方は喉だけが痛いことがほとんどです。
細菌感染の場合は抗生剤が有効ですが、ウイルス感染が原因の風邪には効果がありません。
「私は風邪をひいたら抗生剤を飲まないと治らないんです」
という方は、おそらく風邪で抵抗力が落ちて細菌感染(二次感染)したか、そもそも風邪ではなくて細菌感染なのか、もしくは抗生剤とは関係なく自然経過で良くなったのだろうと思います。
麻黄湯の成分・効能
話を麻黄湯に戻します。
麻黄湯は4つの生薬から構成されています。
・麻黄(マオウ)
・杏仁(キョウニン)
・桂皮(ケイヒ)
・甘草(カンゾウ)
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風邪の引き始めで、「急に体が寒くなって、体が重く、頭痛、鼻水が出る」
このような時に、「熱いお風呂に入って体を温めて汗をしっかりかいたら少し楽になった」「汗をびっしょりかいて寝たらすっきりした」という経験はないでしょうか。
麻黄と桂皮はどちらも発汗を促す作用があり、組み合わせて使うと「強力に発汗を促す」と言われています。また体を温める作用もあります。
悪寒がするような感冒時は自身で体を温めて発汗しようとしますが、麻黄湯はその手助けをしようとするものです。つまり、麻黄湯は自然治癒力を助け、風邪のウイルスの増殖を抑える働きがあります。
また、麻黄には「水を排除する」薬能があり、浮腫や喘鳴にも効くとされています。
効能には「乳児の鼻閉塞」も挙げられています。
麻黄湯を飲むタイミング ~より効果的に服用するには~
麻黄湯は飲むタイミングを間違えると効果が薄くなります。
前述したとおり、麻黄湯は「体を温め、強力な発汗作用」があります。
そのため、寒気がして体がゾクゾクするような時に服用するのがお勧めです。
周りの人は寒がっていないのに自分だけがブルブル震えており、水のような鼻水が垂れ始めた頃が絶好の服用のタイミングです。
そしてまだ発汗していないことも重要です。
すでに発汗している場合は、麻黄湯の力を借りなくてもよいと思います。
体を温める作用を増すために、冷たい水ではなく、温かいお湯などで飲む方が効果的です。
また漢方全般的に言えることですが、空腹時の方が効果的です。
そして痰や咳が増え始めた頃には麻黄湯の効果は薄くなるので服用を中止してよいと思います。
風邪の経過中ずっと服用するものではなく初期に効果的なため、内服期間は1~2日でよいことが多いです。
インフルエンザ症状にも効果的
麻黄湯はインフルエンザの治療にも効果があると言われています。
漢方はランダム化比較試験(新しい治療法を評価する方法で客観的に調べることができる。見た目が良く似た偽薬も用いるため、投与された患者も自分がどっちの薬を飲んでいるかわからず、投与した医師側も目の前の患者がどっちの薬を飲んでいるかわからない状態でその効果を評価する)がなされているものが少ないですが、麻黄湯とインフルエンザに関する論文はいくつか報告されています。
2011年に発表された論文で、インフルエンザの発熱期間および自覚症状に対する麻黄湯、抗ウイルス薬、両者併用の効果を比較したものがあります。
①麻黄湯投与
②タミフル投与
③リレンザ投与
④麻黄湯・タミフル併用
の4群に分け、自覚症状を検討したところ、治療開始から熱が下がるまでの日数においては、4群の間で優位な差は認められず、筋肉痛、頭痛、疲労感、咳が治るまでの日数も差はありませんでした。関節痛に関しては、麻黄湯投与群の方がタミフル投与群よりより早く改善しました。
よって麻黄湯は、熱やインフルエンザ症状において、抗ウイルス剤に匹敵する有効性があるとされています。
2004年に行われた研究では、生後5か月-13歳までの38度以上のインフルエンザ様症状をもつ小児を対象としています。
①麻黄湯単独
②タミフル単独
③麻黄湯+タミフル併用
の3つの群で比較を行いました。結果、タミフル単独群と比較し、麻黄湯単独群および麻黄湯+タミフル併用群のほうが、熱が早く改善しました。
葛根湯との違い
風邪の漢方というと、葛根湯が有名かと思います。
葛根湯も同じく体を温める生薬から構成されています。
構成されている生薬は
・葛根(カッコン)
・大棗(タイソウ)
・麻黄(マオウ)
・甘草(カンゾウ)
・桂皮(ケイヒ)
・芍薬(シャクヤク)
・生姜(ショウキョウ)
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の7つで、麻黄、桂皮、甘草の3つが麻黄湯と同じ(画像は麻黄湯をご覧ください)です。
麻黄の量は麻黄湯が5g/日、葛根湯が3g/日と名前につくだけあり麻黄湯の方が多くなります。
葛根湯に含まれる、生姜+大棗+甘草のセットは胃薬としての効果があります。名前につく葛根は肩などの凝りにも効くといわれています。
葛根湯の方が効能の守備範囲が広く、内服のタイミングも麻黄湯ほど限局されていないので有名なのだと思います。
麻黄湯が向く人、向かない人
漢方には「証(しょう)」といって、体の体質によって同じ病気でも「合う・合わない」があります。
麻黄湯が向く方は、子供~成人で著しく虚弱体質ではない方です。
麻黄湯は、「著しく体が弱っている虚弱な方には不向き」とされています。
そのため体力の低下したお年寄りには慎重に用いる必要があります。
麻黄の成分には、心臓や血管に負担をかける交感神経刺激薬のエフェドリンが含まれています。
お年寄りの風邪には麻黄の入っていない桂枝湯(けいしとう)が勧められています。
下記の方も慎重投与となります。
・著しく胃腸の虚弱な方
・食事不振、悪心、嘔吐のある方
・発汗過多の方
・狭心症、心筋梗塞のある方、既往のある方
・重症高血圧症
・重症腎障害
・排尿障害
・甲状腺機能亢進
子供に飲ませる工夫
麻黄湯の味は甘草が入っているため少し甘く、「わずかに甘くて渋い」と書かれています。
漢方薬の中では、比較的飲みやすいと思いますが、それでも子供に飲ませるのは至難の業かと思います。
せっかく効果がある薬でも飲んでくれなければ意味がありません。
少しでも飲みやすくするために味を調整しても構いません。
ポイントとしては「比較的粘度の高い甘味の強いものと一緒に飲む」ことです。
・少量の水か白湯に溶かし、砂糖やはちみつ(1歳以上)を混ぜる
・バニラアイス、チョコアイスに混ぜる
・チョコペーストに混ぜる
・カルピスの原液に溶かす
・黒蜜に混ぜる
などの工夫をすると比較的飲みやすくなります。
お子さんにあげる前に一度大人が味見してみるとよいと思います。
如何だったでしょうか。
風邪は誰でも引く可能性があり、特に小さな子供がいると頻回に移されることもあります。
漢方薬を取り入れ、風邪との上手な付き合い方を覚えてみてはいかがでしょうか。
※薬局などで購入できる漢方薬は生薬などの有効成分が少ない場合があり、医療機関を受診して処方してもらうのがお勧めです。
参考文献・サイト:
・Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬 浅岡俊之/著 羊土社
・誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 岸田直樹/著 医学書院
・公益社団法人東京生薬協会ホームページ
・Mizue Saita,Toshio Naito,Soushin Boku,el al:The efficacy of ma-huang-tang(maoto)against influenza;Health vol.3,No5, (2011) 300-303
・Kubo T,Mishimura H.Antipyretic effect of Mao-to,a Japanese herbal medicine,for treatment of type A influenza infection in children.Phytomedicine 2007;14:96-101
・お薬110番 麻黄湯 http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200132.html