【扁桃炎】「喉が痛い!扁桃腺が腫れてる!」【のどに白いウミ】
体調が悪くてのどが痛くなった経験は誰しもあると思います。
よく「扁桃腺が腫れました」と言って来院される方がいらっしゃいますが、診ると扁桃が腫れているわけではないこともあります。
そもそも扁桃腺ってなんでしょうか?
今回は扁桃炎についてお話しします。
目次
扁桃腺とは?正式名称は「口蓋扁桃」
ちまたで扁桃線と言うのは俗称で、扁桃腺の医学的な正式名称は「口蓋扁桃」です。
のどには「〇〇扁桃」と呼ばれるものが4つあります。その中で一番大きくて目立つのが口蓋扁桃で通称「扁桃腺」と呼ばれます。
この口蓋扁桃に炎症を起こした状態が「扁桃炎」です。
口蓋扁桃は、鏡の前で口を大きくあけて自分で確認することもできます。
大人になると退縮してしまうので見えないこともありますが、子供の頃は基本的に両脇から張り出すリンパの塊が見えます。大人でも退縮せずに大きいままの方もいらっしゃいます。
扁桃はのどにあるリンパの組織です。
外からウイルスや細菌が侵入してきた時に、いち早く戦いやっつけようとする免疫組織です。子供の頃は全身の免疫機能が未熟なため扁桃は大きく、大人になるにつれ他の免疫機能がUPするので、扁桃は縮んで小さくなる傾向があります。
風邪による喉の痛みと扁桃炎を見分ける方法
「喉が痛い=扁桃炎」ではもちろんありません。
喉の痛みには色々原因がありますが、頻度が高いのは「風邪による喉の痛み」です。
しかし初期の段階で風邪を「風邪」と診断することは難しく、ある程度経過をみないと本当に風邪なのかわからないことが多いです。
そもそも「風邪」ってなんでしょう。
「風邪」というのは「様々なウイルスによって起こる疾患群で、良性の自然軽快する症候群」と定義されています。必ずしも熱がでるとは限りませんし、様々なウイルス感染による症状なので、毎回同じ症状とも限りません。
では扁桃炎との区別はどのようにつけたらよいでしょうか?
風邪の場合は、「色々な症状が出る」のが特徴です。
喉の痛み、鼻水、くしゃみ、咳、痰など色々な症状がでます。
寒気、関節痛、倦怠感、熱が出ることもあります。
出現する症状や、経過も人それぞれです。
家族みんな風邪をひいた場合、おそらく同じウイルスによる風邪だと思いますが、お子さんは鼻水と咳、大人は喉の痛みだけ、なんてことも良くあります。
一方で、扁桃炎の場合は、鼻汁がでることはほとんどなく、「喉だけが痛い」ことが多いです。扁桃炎の原因も色々ありますが、主には細菌感染のため、細菌が扁桃に感染して炎症を起こすので「喉だけ」が痛くなります。
風邪はウイルス感染のため、抗生剤が効きません。
抗生剤は細菌を殺す薬なので、ウイルスは殺せません。
インフルエンザ(ウイルス)は抗インフルエンザ薬がありますが、一般的な風邪のウイルスには有効な抗ウイルス薬がないので基本的には症状を抑える薬を使用しながら、自分の抵抗力でウイルスをやっつけるのを待ちます。
ただし風邪の初期は「喉だけが痛い」こともあります。
扁桃炎は口蓋扁桃が赤く腫れ、白苔といって扁桃に白いものがつくなどの所見がでます。そういった所見がしっかり出ていれば診断がつけやすいのですが、扁桃炎の初期は少し赤いだけで経過をみないと分からないこともあります。
風邪も扁桃炎も比較的頻度の高い、誰しもかかる可能性の高い病気ですが、実は初期の段階で診断をつけるのは難しいものなのです。
ですから喉の痛みに対して抗生剤を処方するかどうかは、その時の状態や医師の考え方によって異なります。
近年は耐性菌や腸内細菌叢を変えてしまう原因になるので安易に抗生剤は処方しない傾向にあります。
「色々考えるのも面倒だし、風邪と診断して実は細菌感染だったら困るからとりあえず抗生剤を出しておこう」と風邪に対しても毎回抗生剤を出していると、細菌感染を見逃すことはなくなると思いますが、必要以上に抗生剤を使用していると、後々抗生剤の効かない菌(耐性菌)が増え、本当に必要な時に「抗生剤が効かない!」または、自分たちの子供や孫の世代で耐性菌だらけになり今まで抗生剤を飲めば重症化しなかった病気が「不治の病」になる可能性もあります。
医師として極力ウイルス性か細菌性かは見極めていきたいところです。
細菌性扁桃炎の代表~溶連菌性扁桃炎~
色々な細菌が原因で扁桃炎になることがありますが、一番有名なのは「溶連菌(ようれんきん)」です。
溶連菌の正式名称は「溶血性連鎖球菌」です。
溶連菌にもいくつか種類がありますが、頻度の高いA群β溶血性連鎖球菌には迅速検査キットがあり、喉の粘膜をこすって数分で診断をつけることが出来ます。
症状は、喉の痛み、発熱、首のリンパ節の腫れが主ですが、全身の皮疹が出ることもあります。口蓋扁桃は腫れ、白苔がつくことも多いです。
子供の方が比較的罹患しやすいですが大人も罹ります。
溶連菌性扁桃炎の場合は、抗生剤が良く効きます。
抗生剤の中でもペニシリン系と言われる種類を10日間使用することが一般的です。
(第3世代セフェム系の抗生剤を5日間使用することもありますが、耐性菌を減らす観点からペニシリン系が推奨されています。)
溶連菌の怖いところは、稀ではありますが合併症を起こすことです。
例えば、溶連菌により腎炎が引き起こされることがあります。溶連菌罹患後に突然の血尿、むくみ、血圧上昇を認める場合は糸球体腎炎を発症している可能性があり精査が必要です。
また先進国では抗生剤の発展とともに激減していますが、溶連菌にかかり2-3週間して関節痛や発熱、胸の痛みなどがあればリウマチ熱の可能性もあります。リウマチ熱は十分な治療が行われないと心臓の弁の病気になることがあります。
ウイルス性扁桃炎の代表~伝染性単核球症~
ウイルスによる扁桃炎の代表は伝染性単核球症です。
伝染性単核球症は主にEBウイルスにより引き起こされます。
伝染性単核球症は子供というよりも20代前後で罹患することの多い病気です。
大抵の方は子供の頃にEBウイルスに罹患し症状はでません。
しかし一部の方はEBウイルスに罹患せず大人になり、大人になって初めて感染すると扁桃炎、高熱、リンパ節の腫れなどの症状がでます。
一般的な飛沫(くしゃみや咳など)で感染することもあるとは思いますが、よく言われるのは「だれかとはじめてキスして感染する」ということです。
通称「kissing disease」とも呼ばれます。
そのため扁桃炎でかかる若い方にパートナーの有無やその関係性を問診することがありますが、決して扁桃炎と関係ない質問ではありませんので、びっくりしないで頂きたいです。
伝染性単核球症はウイルスによる病気なので、基本的には自然に症状が治まるまで解熱剤などを使用して様子をみますが、つばも飲めないほどひどい場合には入院する方もいます。
また激しい倦怠感が続くこともあります。
合併症としては肝機能の異常、肝臓、脾臓の腫大、激しい運動をして脾臓が破裂(脾破裂)などもあるので安静にする必要があります。
手術が必要となる場合
ウイルス性の扁桃炎はあまり繰り返すということはありませんが、細菌性扁桃炎は繰り返しかかることがあります。
度々扁桃炎に罹り、その度に仕事を休まないといけない、痛くて辛い、抗生剤を使う頻度が多い、そんな場合は手術して扁桃を取ってしまうことも出来ます。
扁桃摘出術の厳密な手術適応の基準は設けられておらず、確実に扁桃炎で症状が出ており、何度も繰り返していれば手術(扁桃摘出術)の適応になると思います。
一般的には「年4回以上繰り返す場合」や「1年間に罹った回数×罹患年数が8以上」の場合に手術を検討することが多いです。
扁桃周囲膿瘍といって扁桃の周りに膿がたまる状態も適応です。
手術は全身麻酔で行います。術後は喉の痛みが強く、まともに食事が摂れない、声が痛くて出せない、また創部から出血の恐れもあるので、1週間程度入院となることが多いです。術後は大人よりも子供の方が回復が早い傾向があります。
以前は「扁桃腺を切ると風邪を引きやすくなる」と言われていましたが、成人では扁桃以外にも免疫を担当している臓器がありますし、子供でも一時的には抗体価が減ったとしてもすぐに補われると言われているので、口蓋扁桃があることでデメリットが多いようであれば切除を検討されてもよいのではないでしょうか。
今回は扁桃炎について記載しました。何か参考になることがあれば幸いです。
(参考文献)
山本舜悟(2017)かぜ診療マニュアル第2版 日本医事新報社