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【ベタベタの湿性耳垢】正しい耳かき・耳掃除の方法をご存じですか?そもそも耳かきは必要?【カサカサの乾性耳垢】

[2022.04.15]

新学期が始まりそろそろ学校健診のシーズンです。

健診の際に耳垢でひっかかったことがある方も多いのではないでしょうか?

 

一般の方が思っている以上に年齢は関係なく耳垢についてのトラブルは多いもので、生まれたての赤ちゃんから老人ホームに入所されているようなご高齢の方まで、多くの方が耳垢除去を主訴に当院を受診されます。

0歳の赤ちゃんの耳垢除去した後に100歳の方の耳垢除去が続き、「年齢差1世紀」ということも起こります。そして診察室で「耳垢ってどうやって取ったらよいですか?」とよく聞かれます。

今回は知っているようで意外と知らない耳垢・耳かきの方法について考察していきます。

 

目次

・そもそも「耳垢」って何でしょうか?

・耳垢の種類

・耳掃除はする必要がある?

・耳垢がたくさんたまっている方

・耳垢ってどうやって取ったらよいですか?

・一般で売られている耳かきと耳鼻科で耳垢除去に使用する器具の違い

・余談:耳鼻科医は耳かきしない?!

 

 

そもそも「耳垢」って何でしょうか?

まず「耳垢」とは一体何でしょう。

耳垢は鼓膜と外耳道の古くなった表皮(皮膚の一番外側の部分)が新陳代謝で毎日少しずつ外へ運ばれたものです。途中皮脂腺からの分泌物や耳の毛も混じります。

 

一般的に耳には自浄作用があるため、何もしなくても耳垢は自然に体外へ排出されます。

外耳道の皮膚の表面には腺毛(せんもう)といって異物を外に出す機能があるので、耳垢などの不要なものは外側へと運び出されていくのです。

例えば鼓膜に傷ができて鼓膜表面に血の塊がついていても、1か月ほどすると外耳道の方へ移動し、数か月かけて耳の外へ排出されていきます。

 

耳垢の種類

乾性耳垢

乾性耳垢(白色~黄色で乾燥してカサカサしている)

福井厚生連病院ホームぺージより改変

当院で除去した未就学児の乾性耳垢(片耳)

湿性耳垢

湿性耳垢(黄色~茶褐色で湿ってネバネバ、ベトベトしている)

 

福井厚生連病院ホームぺージより改変

 

以上2種類があり、遺伝的な要素でどちらのタイプになるか決まっています。

この遺伝子は、北海道大学医療大学元学長で医師だった新川詔夫先生が、ヒト染色体のうち16番目の染色体上に存在する「ABCC11」と呼ばれる遺伝子が決めていることを発見しました。日本人の68~83%がカサカサした乾性耳垢です。

 

耳掃除はする必要があるの?

耳には自分で掃除する機能が備わっているため、基本的には外側に出てきたものをふき取るくらいで十分だと言われています。

奥まで耳掃除をすると、かえって出てこようとしている耳垢を押し込むことになり耳垢がたまりやすくなります。また頻回の耳掃除で外耳炎を起こし外耳道の皮膚が余計に剥けてきたり、耳から汁(耳漏)が出て乾いたものが溜ってしまうこともあります。

 

耳垢はすぐに溜まるものでもないので毎日ケアする必要もありません。

時々出産後、沐浴の後に必ず耳掃除をするように指導されている場合がありますが、小さな外耳道に綿棒を入れると傷を作ったり、外耳炎になったりするリスクがあるためガーゼで拭く程度で十分です。

しかし耳に自浄作用があるとはいえ、それが十分に機能していないケースもあります。

 

耳垢がたくさんたまっている方

「昨日お風呂に入った後から、全く右耳が聞こえないです!」

と心配そうに受診する方がいらっしゃいます。

「急に耳が聞こえづらくなった」場合はまず突発性難聴を疑います。

突発性難聴の場合は早期に治療を行わないと聴力が固定してしまう恐れもあるため、すぐに耳鼻科を受診することをお勧めします。

しかし、その中には耳垢が原因で聞こえづらくなっている方もいらっしゃいます。

もともと耳垢が多く溜まっていたところに、水や汗がはいり耳垢がふやけて完全に外耳道を閉塞すると軽度~中等度難聴をきたします。比較的耳垢が柔らかいタイプの方、外耳道が狭い方に起こりやすいです。

そのような方は、耳垢を取ると急に聞こえるようになるため処置するととても表情が明るくなり「すごく良く聞こえます!」と驚いて帰られることが多いです。

 

また90代くらいのご高齢の方が付き添いの方とともに来院され

「元々聞こえは悪いんだけど、最近特に聞こえていないみたい」

といった時も耳垢が原因のことがあります。

耳を見ると、完全に耳垢が外耳道を閉塞してカチカチに固まっていることがあり、除去すると急に会話がスムーズになり、表情まで明るくなるのでこちらも嬉しくなることがあります。難聴は認知機能やうつ病との関連も強いため、高齢の方の耳垢が原因の難聴を治療しないのは本当にもったいないと思います。

 

また外耳道の狭いお子さんも耳垢が溜まりやすいです。

「昨日から鼻水、咳で」といって受診された際に耳を拝見すると耳垢がごっそり溜まっていることもよくあります。未就学児は耳の症状を訴えないことがほとんどなので、気づかないうちにたくさん溜まって聞こえづらくなっていることもあります。

保護者の方に聞くと、「耳掃除を嫌がって全然やらせてくれない」と言われることもあります。

しかし家でやっていても、ただ奥に押し込んでいるだけで余計奥まで耳垢が詰まってしまい、とても取りづらい状況になっている場合もあります。

耳垢が外耳道を完全に閉塞するのは「耳垢栓塞」という病気です。耳垢栓塞は、ホームケアでは除去が難しくかえって状況を悪化させてしまうので、必ず耳鼻科を受診するようにしましょう。

 

当院成人男性、耳垢栓塞の1例

 

難聴になるほど耳垢がたまっていなくても、「頭を動かしたときにゴソゴソ音がして不快です。」といった場合、耳垢の塊が鼓膜の上にあって違和感を感じることがあります。鼓膜の上に乗っているので綿棒などで取り出すことはできず、「自分で色々やってみたけどダメで来ました。」と来院されることもあります。

 

このような方々を目にすると、耳に自浄作用があるからまったく耳掃除をする必要がないとは言い切れず、やはり目で見て確認しないと分からないものだなぁと思います。

 

 

耳垢ってどうやって取ったらよいですか?

冒頭の質問の「耳垢はどうやって取ったら良いか」ですが

基本的には、

・耳には自動で耳垢を送り出す機能が備わっているので、耳掃除をする場合も手前の部分まで出てきた耳垢を拭い取る程度でよい。

・耳掃除するとしても入口から1cm程度までにして奥までは入れない方がよい。

・違和感が強ければ耳鼻科受診すること。

を気を付けてください。

 

また自宅のケアで未然にトラブルを少しでも防ぎたい方は、

「誰かにライトで照らしながら耳を見てもらい、奥に溜まっていたら無理せず耳鼻科へ、手前の方にあり取れそうであればライトで照らしながら気を付けて誰かに取ってもらう」

のがよいと思います。

 

また

・湿性耳垢

・もともと溜まりやすい

・外耳道が狭い

・暴れて見せてくれない(子供など)

・耳の毛で奥が見えない

このような方は定期的に耳鼻科でチェックを受けることをお勧めします。

 

 

一般で売られている耳かきと耳鼻科で耳垢除去に使用する器具の違い

とはいえ、耳かきはあの独特の心地よさから癖になってしまう方もたくさんいらっしゃいます。

ネット通販で「耳かき」と検索すると実に色々な種類の耳かきが販売されています。

 

形で見ると、従来のさじ型、スクリュー型、コイル型、ピンセット型、ブラシ型などがあり、材質でみても、ステンレス、シリコン、竹、チタン製など種類が豊富です。

 

 

LEDライト搭載でカメラがついておりスマートホンと連動して自分で画像を見ながら耳掃除できるものや、電動耳かきでバイブ機能、吸引機能付きのものなど、耳かきもこんなに進歩しているのかと驚きます。

海外製のものも多く、世界中の方が耳垢で悩んでいることが伺われます。

 

そして検索していて、「一般で販売されている耳かきと耳鼻科で使用している器具が大きく違うこと」に気づきました。

 

耳鼻科で耳掃除、つまり耳垢除去の際に使用する器具は主に

耳鏡、麦粒鉗子または耳垢鉗子、吸引、そして光源となるライト(以前は額帯鏡)や顕微鏡です。

 

右上から吸引ノズル、耳垢鉗子、耳鏡、頭に被る光源セット

近年一般的に売られている耳かきが進化しているのに対して、耳鼻科の器具は数十年前から変わっていないと思われます。唯一、この10年ほどで変わったのは、以前は耳鼻科医というと額帯鏡(がくたいきょう)といって頭に丸い円盤のようなミラーを付けて、光を反射させて耳や喉を見ていましたが今はLEDライトが主流となりました。もちろん当院の光源もLEDです。

また一般で売られている耳かきは、形状やサイズの違うものが5本セットや7本セットで売られているのに比べて、耳鼻科で使う器具の種類は多くありません。

その代わり器具がより細く、「掻き出す」のではなく、「挟んでつかむ」または「吸い取る」方法で耳垢を取ります。

そして何より重要なのはしっかり耳垢と周囲の構造物を見える状態にすることです。

耳鏡を使用して耳の毛をどかし、ライトを照らして、必要であれば顕微鏡で耳垢を拡大しながら鼓膜との位置関係を確認して取っていきます。子供の場合は、スタッフが頭を固定して押さえます。

当たり前ですが、自分の耳ではなく相手の耳を診ます。

よい器具を使うことも大切ですが、良い条件を作ることはもっと大切です。

普段ご自宅で行う場合も使う器具にこだわるよりも、より見えやすくするためにライトを調達したほうが良いのではないでしょうか。

防災グッズで売られているような頭に巻くライトで十分だと思います。

そして、自分で耳かきをやるのではなく信頼のおける誰かにお願いしてください。

その際は、周囲に危険がないか確認してください。

「耳かき中に犬が飛びかかってきて、鼓膜に穴が開きさらに奥まで刺さってしまい手術になった」という事例もあります。

 

また、あまり複雑な器具を使うとその器具を清潔に保てるか心配になります。

耳かきを好む方は外耳炎になりやすく、抗生剤が効きづらい細菌や時にはカビ(真菌)が原因となることもあります。きちんとした洗浄ができていない状態で、耳かきを家族内で使いまわすと感染を広げる可能性もあるので注意が必要です。当院含め多くのクリニックでは器具は洗浄後滅菌しています。

 

余談:耳鼻科医は耳かきしない?!

私は幸い耳の自浄作用が機能しているようで耳掃除で困ったことがないのですが、やろうと思えばいつでも耳掃除をできる設備が整っている環境でずっと過ごしてきました。

以前は大きな病院の耳鼻科に勤めており耳鼻科医が常に数人いる状態でしたが、思い返せば、耳鼻科医同士で耳垢を取り合っている様子はみたことがありません。そのくらい溜まりやすい方以外は耳垢除去しなくても問題ないのだと思います。

耳鼻科の教科書で「耳垢」について割かれているページはほんのわずかですが、耳垢の悩みを持つ方がとても多く、溜まりやすい方は自宅でケアしようと思うと結構大変だなぁと思います。

「耳垢で受診してもいいんでしょうか?」と控えめに聞かれる方がいらっしゃいますが、もちろん大丈夫なので、お気軽に受診ください。

 

以下は、院長が耳かきについて地方紙に執筆した新聞記事です。

 

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