鼓膜チューブ挿入術(鼓膜チュービング)
概要
鼓膜チューブ挿入術(鼓膜換気チューブ留置術・鼓膜チュービング)は鼓膜に小さなチューブを通す手術です。
鼓膜にチューブをはめ込むことで、鼓室内(鼓膜の後ろのスペース)に溜まった貯留液の排泄や換気を行う目的で行われます。
対象となる方
反復性中耳炎や持続する滲出性中耳炎に対して鼓膜チューブ挿入術が推奨されます。
反復性中耳炎とは「過去6ヵ月以内に3回以上、12ヵ月以内に4回以上の急性中耳炎に罹患」する中耳炎のことです。
鼓膜チューブ挿入術が推奨される滲出性中耳炎とは以下の場合です。
・3ヵ月以上滲出性中耳炎が遷延
加えて
・両側とも中等度以上の難聴があるor鼓膜の病的変化あり
・一側性で鼓膜の病的変化あり
手術の方法
局所麻酔で行う場合と全身麻酔で行う場合があります。
外耳道が非常に狭い方や体動が強く抑制できない方は大きな病院にて全身麻酔で行います。
※現在、当院では鼓膜チューブ留置術の施行を休止しています。
局所麻酔で行う場合
鼓膜を直接切開すると激しい疼痛を認めるため、初めに鼓膜表面を麻酔します。
鼓膜麻酔液を小さな綿に浸して鼓膜表面に置きます。この時、少し痛みや音で苦痛を感じることがあります。その後、数十分間麻酔が効くのを待ちます。
ベッドに横になった状態で麻酔の綿を取り、鼓膜の安全な部分を切開します。
貯留液を認める場合は必要に応じて細菌培養検査を行うために検体を採取し、貯留液を吸引管で吸引していきます。吸引する際に耳の中で非常に大きな音がします。
鼓膜切開部から出血を認める場合もあるため、適宜止血剤を塗布した綿を挿入し吸引します。炎症が残っている場合や長期間中耳炎を患わっている方は出血しやすい傾向があります。
その後切開部にシリコン製のチューブを挿入します。
挿入後は数日間耳漏を認める場合があるため通院が必要です。
術後に点耳薬を処方するためご自宅で1日2回使用して下さい。
チューブが安定した後も、気づかないうちに脱落していることや閉塞していることがあるため月1回は必ず受診してください。
チューブ挿入中の注意点
・挿入中はご自宅で耳掃除はしないでください。
・プールで潜る際にはシリコン製の耳栓を使用してください。ビニールプールで水浴びする程度であれば耳栓は不要です。
・プールでは潜水、飛び込みは行わないでください。
・シャワーやお風呂は基本的には耳栓は必要ありませんが、お風呂で潜り耳に水が入りそうな際は耳栓を使用して下さい。
・飛行機に乗ることは問題ありません。
・中耳炎に罹患するタイミングで耳漏がでることがあります。
・治療しても耳漏が改善しない場合、チューブ自体が感染源となり耳漏を来している事があります。その際は抜去します。
・挿入中は稀に耳から血が出ることがあります。その場合は受診してください。
・月1回の受診を行ってください。
留置期間の目安
おおよそ1年間留置します。それより前に自然脱落することもあります。1年経過してもチューブが脱落していない場合は抜去します。すぐに再発する場合は再挿入が必要になることもあります。
鼓膜チューブ挿入術のメリット・デメリット
メリット
反復性中耳炎の場合
・急性中耳炎に罹患、抗生剤内服の頻度が減ります。
・一定期間鼓室内を換気することで鼓室内粘膜の炎症が取れてチューブ抜去後も中耳炎に罹患しづらくなります。
・突然の発熱や耳痛を認める頻度が減少し、本人や保護者の負担が減少します。
滲出性中耳炎の場合
・鼓室内の貯留液がなくなることで、難聴や耳閉感が改善します。
・滲出性中耳炎に対する内服薬が必要なくなります。
・一定期間鼓室内を換気することで、チューブ脱落後も中耳炎に罹患しづらくなります。
・気づかないうちに中耳炎に罹患している事がなくなります。
・癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎への移行を予防できます。
デメリット
・一定の確率で鼓膜穿孔が残ります。その際は全身麻酔下にて鼓膜を閉鎖する手術をご提案します。穿孔部を塞いですぐに中耳炎が再発する可能性がある場合は、穿孔のまましばらく経過をみることもあります。
鼓膜穿孔の大きさにもよりますが、穿孔があることで難聴、耳漏を来すことがあります。
・チューブを挿入していた部位の鼓膜が薄くなったり、石灰化して白く硬くなることがあります。鼓膜が石灰化するとごくわずか(0.5dB程度)に聴力が低下しますが、実生活には支障を来しません。